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大阪高等裁判所 昭和60年(行コ)36号 判決 1989年2月28日

大阪市西淀川区出来島二丁目一番二四号

控訴人

大原信秀

右訴訟代理人弁護士

山下潔

金子武嗣

森下弘

大阪市西淀川区野里三丁目三番三号

被控訴人

西淀川税務署長

伊丹聖

右訴訟代理人弁護士

兵頭厚子

右指定代理人

笠井勝彦

石田一郎

大国克巳

西峰邦男

芝亘

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人が昭和四九年一月二三日付で控訴人に対してした昭和四六年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、総所得金額三七七万三四三四円を超える部分を取り消す。

被控訴人が昭和四九年一月二三日付で控訴人に対してした昭和四七年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、総所得金額一三一六万九六五一円を超える部分を取り消す。

控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを八分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人が昭和四九年一月二三日付で控訴人に対してした昭和四五年ないし四七年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分のうち原判決別表(一)の各承認所得額を超える部分をいずれも取り消す。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件訴訟を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

次に賦課するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決二枚目裏八行目の「認容」を「認否」と、四枚目裏八行目全部を次のとおりそれぞれ改める。

「(二) 昭和四六年分

(1)  期首棚卸高 一八一五万九〇〇四円

(2)  仕入金額 一億六二六八万一六八五円

(3)  期末棚卸高 二三六〇万六二八九円

(4)  売上原価((1)+(2)-(3)) 一億五七二三万四四〇〇円

(三) 昭和四七年分の一次主張」

五枚目表七行目の次に改行して次のとおり加える。

「(四) 昭和四七年分の二次主張

(1)  期首棚卸高 二三六〇万六二八九円

(2)  仕入金額 二億六五五六万一五七四円

(3)  期末棚卸高 二五〇二万九七八一円

(4)  売上原価((1)+(2)-(3)) 二億六四一三万八〇八二円」

七枚目裏四行目の「のうち、」の次に「昭和四六年分及び昭和四七年分(二次主張)のすべての項目並びに」を加える。

(控訴人)

一 余剰商品について

1 控訴人の申告所得額は原判決別表(一)申告所得額欄記載のとおりであり、昭和四五年分の申告所得額三二三万七七〇〇円から減耗損五八六万五六〇五円を控除すれば二六二万七九〇五円の、四六年分の申告所得額八一万六五〇六円から減耗損三一四万四六八八円を控除すれば二三二万八一八二円のそれぞれ赤字となる。銀行や商社との取引が安定しているのは控訴人が黒字の決算をしているからであり、赤字の決算になればこのような安定した取引ができなくなることは商取引の一般常識である。

2 被控訴人の主張を前提にすると、昭和四五ないし四七年分の在庫の推移は本判決別表(一)ないし(三)のとおりであり、これによると、次のような不当な結果が生じる。すなわち、四五年分の期末在庫は一一八一万二七一六円となり(12,000円×977.065トン=11,812,716円。円未満四捨五入。以下同じ)、当事者間で争いのない一八一五万九〇〇四円の約六五パーセントになつてしまい、さらに、減耗損を考慮すると僅か七六二万〇二七九円にしかならず、約四二パーセントになる。また、四六年分の期末在庫は一四四五万〇九八二円となり(10,300円×1,408・008トン=14,450,982円)、当事者間で争いのない二三六〇万九〇〇四円の約六一パーセントになつてしまい、さらに、減耗損を考慮すると一一二八万七〇〇八円にしかならず、約四七・八パーセントになる。次に、七年分の期末在庫は二一〇二・一九二トンとなり、二三九八万〇八一三円となるが、被控訴人の認める減耗損四五〇・〇一トンを控除すると一六五二・一八二トンとなり、一八八五万三〇四九円となつて、約七八・六パーセントになり、四五年分、四六年分の各減耗損三四六・七六九トン、三〇七・一八二トンをもそれぞれ控除すると、九九八・二三一トンにしかならず、平均単価を一万一四一一円として一一三九万〇八一三円となり、当事者間で争いのない二五〇二万九七八一円の約五四パーセントになつてしまう。

一方、控訴人主張を前提として計算すると、昭和四五年ないし四七年分の在庫の推移は本判決別表(四)ないし(六)のとおりである。これによると、四五年分の期末在庫は一九二六・九六トン、二三二九万六九四六円となり、四六年分の期末在庫は二六九三・四八二七トン、二七七四万二八六四円となる。四七年分の期末在庫は三四六四・九一六トンであるが、これから繰り越した四五、四六年分の減耗損各三四〇・八二トン、三〇〇・三七一トン、四七年分の減耗損四五〇・〇一トンを控除すると一〇九一・二四三トン、二七〇八万〇九八三円となり、当事者間で争いのない二五〇二万九七八一円と、余り誤差のない金額に落ち着く。

以上のことは、被控訴人主張の四五年分の期首在庫に無理があること、同主張の余剰商品などが全くないことを表している。

二 その他の収入金額について

1 仮に、被控訴人主張のその他の収入金額が売上に計上されるのであれば、予備的に売上原価の額を次のとおり主張する。

これらの売上に相当する売上原価は控訴人が主張する売上原価の中には含まれていないから、右売上漏れに見合う売上原価を計算にいれなければ不合理である。すなわち、控訴人の棚卸の方法はいわゆる実地棚卸ではなく、帳簿棚卸であるから、売上に算入していない場合には、そのまま在庫として計上され残つていることになる。したがつて、右売上漏れとされた商品は在庫として計上され、売上原価の中には含まれていないことになる。右主張は自白の撤回に当たらない。仮に自白になるとしても、間接事実の撤回は許される。

2 これを算出すると、次のとおりである。

昭和四五年分の売上原価

同年分に簿外売上とされた金額は五六八万二七〇四円であり、これをトン当たりの売上平均単価一万九一四三円で除すると、売上トン数が二九六・八五五トンとなり、これに同年分のトン当たりの仕入平均単価一万六五〇三円を乗じた四八九万九〇一五円が右簿外売上に見合う売上原価であり、控訴人主張の従来の同年分の売上原価二億九三二八万〇二九五円にこれを加えると二億九八一七万九三一〇円となる。

昭和四六年分の売上原価

同年分に売上漏れとされた金額四四一万三二五〇円をトン当たりの売上平均単価一万二二七六円で除すすと、売上トン数が三五九・五〇二トンとなり、これに同年分のトン当たりの仕入平均単価一万〇三〇六円を乗じた三七〇万五〇二八円が右簿外売上に見合う売上原価であり、控訴人主張の従来の同年分の売上原価一億五七二三万四四〇〇円にこれを加えると一億六〇九三万九四二八円となる。

昭和四七年分の売上原価

昭和四七年分に売上漏れとされた金額九七万二九九六円をトン当たりの売上平均単価一万三六八六円で除すると、売上トン数が七一・〇九二トンになり、これに同年分のトン当たりの仕入平均単価一万一四〇六円を乗じた八一万〇八九八円が右簿外売上に見合う売上原価であり、控訴人主張の従来の昭和四六年分の売上原価二億六四一三万八〇八二円にこれを加えると二億六四九四万八九八〇円となる。

3 そうすると、差し引き所得金額は本判決別表(七)のとおり、昭和四五年分が四五七万六九三六円、昭和四六年分が二二二万六〇〇七円、昭和四七年分が四八八万六九七四円となる。

三 昭和四五年分の売上原価について

1 乙第四五号証によると、昭和四四年分の期首在庫高は四一二万九三二〇円に過ぎず、期末在庫高は一〇三一万八一七六円に過ぎないことになるが、右のような在庫では事業は不可能である。なお、控訴人自らが計算、作成したものでない乙第四五号証に反する主張をすることは何ら信義則に反しない。

2 昭和四五年分の期末在庫高一八一五万九〇〇〇円(当事者間に争いがない)を同年一二月のトン当たり平均価額で除すると一五〇一・九八五トンとなり、同年分の仕入高二億九一一二万一一二三円(当事者間に争いがない)のトン数は一万七六四〇・一四四トンとなる。売上高を仮に被控訴人主張の三億三一七六万二四九四円としてもトン当たり売上平均単価一万九一三四円(売上高三億二二九七万九五八二円を売上総量一万六八七九・四四トンで除したもの)で除すとそのトン数は一万七三三〇・七四七トンとなる。仮に被控訴人主張のようにトン当たり売上平均単価を一万八八五一円とすると売上トン数は一万七五九九・一九八トンとなる。右期末在庫トン数と売上トン数とを加えて仕入トン数を控除すれば、期首在庫トン数は、控訴人主張のトン当り売上平均単価一万九一三四円の場合で一一九二・五八八トン、被控訴人主張のトン当たり売上平均単価一万八八五一円の場合で一四六一・〇三九トンとなり、これに同年一月におけるトン当たり仕入平均単価一万七〇〇〇円を乗ずると、期首棚卸高は、控訴人主張の場合で二〇二七万三九九六円、被控訴人主張の場合で二四八三万七六六三円となり、控訴人主張の二〇三一万八一七六円とほぼ同一となる。

なお、トン当たり仕入平均単価により期首期末の棚卸数量を計算する方法は、被控訴人が四七年分の余剰商品による売上高の計算に当たり使用した方法と同一であり、これを否定する被控訴人の主張は自己矛盾である。

3 被控訴人主張の事後に把握したとされる昭和四四年分の所得のうち、田村順子名義一三二七万〇七五〇円の内訳は頼母子講の入金五九六万二七六六円、大原清藏からの入金二〇〇万円、小切手の換金依頼分二八万〇九九三円、売上分五〇二万六九九一円であり、小山正義名義の五五二万九九八二円の内訳は頼母子講の入金四九五万三七二一円、売上分五七万六二六一円であり、売上分合計五六〇万三二五二円を乙第四五号証の売上に加算し、四五年から四七年分までの差益率により計算すると、八一九万五二四四円の在庫過少となり、税務当局が屑鉄卸業の推計差益率として使用する一四パーセントを前提としても八一九万円の在庫過少となる。また、トン数により在庫額を計算すると、四五年末に四一〇・三九八トンの、四六年末に二一四・六九トンの過少トン数が出てくる。

4 被控訴人主張を前提とすると、前記一余剰商品の2において主張したとおり、不当な結果が生じる。そのことは、被控訴人の昭和四五年分の期首在庫に関する主張に無理があることを表している。

四 雇入費について

1 被控訴人主張の昭和四五年分、四六年分の推計は誤つている。売上金額はトン当たりの単価によつて左右されるが、右単価は一定せず、毎月変動し、売上金額もこれに従つて変動するので、雇人費がこれに比例するということはない(雇人費と比例するのは売上トン数である)。

2 そのうえ、控訴人は昭和四六年八月一六日に人件費節約、品質向上、売上向上のための新しい機械「切断五〇〇トンプレッシャー機」を導入し、それ以前と以後とでは環境条件が全く異なつたから、四七年分の雇人費から四五年分の雇人費を推計するのは誤りである。なお、同機械は、右同日に据え付けられ、使用が開始されたもので(甲第二六号証、第三三号証、第三四号証の一、二)、乙第五三号証中、四七年四月一二日の機械移動費、同年九月三〇日の五〇〇トンスクラップフレッシャーとあるのは本件機械のことではない。

3 控訴人の賃金台帳(甲第六、第七号証)は、細かい部分において記載上の不備はあるが、人員の推移を考えるとその記載は正確といえる。すなわち、これによると(甲第六、第七号証をまとめた甲第一九号証参照)昭和四五年に一定の生産性を上げるためには一五名が必要であり、四六年になると不況となり、人員を一二名に減らしたが、前記のとおり同年八月に新しい機械を導入し、その試運転のため一時的に八月、九月の人員が増加し、一〇月以降機械の効果が現われ、四七年には人件費が減少しており、右は原判決の認定とも符合し、甲第六、第七号証の正確性を物語る。また、損益計算書の八五三万九八一五円と甲第一九号証の四七年分におけるハの数字から算入漏れのイを控除した数字とは一致する。

4 労務費については、昭和四五年分より前も、四七年分後も一貫して源泉徴収せずに支払い、したがつて、徴収高計算書にも記載していないが、被控訴人自身ですら一貫してこれを認めているのであつて、徴収高計算書に記載されていないことは労務費を否定する理由とならない。その金額は控訴人の総勘定元帳(甲第二九ないし第三一号証)により明らかであり、損益計算書(乙第四四号証)と総勘定元帳の労務費の部分(甲第三一号証)の各労務費の額九九万二八七〇円とは一致する。

五 支払利子割引料について

割引手形計算明細書(甲第三二号証の一、二)に記載された支払利息六万三七六七円、七万九一〇九円の合計一四万二八七六円と綿谷名義の三〇〇万円の支払利息一四万二八七六円とは一致し、甲第九、第一〇、第二〇、第二三号証、山本証言の信用性は十分であり、昭和四五、四六年分の住友銀行歌島橋支店に対する支払利息や頼母子講の掛金も明らかである。

(被控訴人)

一 余剰商品について

1 控訴人と商社との関係は、控訴人が売り手(債権者)であつて、買い手側の商社が控訴人の信用を重視する必要はなく、したがつて、信用上わざわざ黒字を粉飾する必要はない。また、控訴人は昭和四五年に約四〇〇〇万円、四六年に約五〇〇〇万円の各高額の借入金があり、これに比べて申告額は低額であり、右程度の粉飾黒字決算をしたことが、銀行に対する信用上のためとは考えられない。

2 控訴人において、売上帳、仕入帳を提出すれば、昭和四五年期首棚卸高が判明しているのであるから、減耗損の有無を明らかにしうるが、その提出がないため明らかにならない。

3 減耗損の計上は、期末棚卸数量の算定の際に当該数量から減ずべきものであつて、仕入金額から減ずべきものでない。また、売上原価額の二パーセントを減耗損とすることは合理性がない。さらに、控訴人が四五年分期首棚卸高一〇〇〇万円の増額をいうのであれば、期末棚卸高も一〇〇〇万円の増額となる。

4 被控訴人が昭和四七年分の剰余商品の算定に当たり減耗損を認めたのは、剰余商品である架空仕入金額又は売上計上漏れ金額を算定するに当たつて、期末棚卸高に争いがないので、減耗分に相当する売上数量が減少していると見込まれるため、売上数量と仕入数量との対比の結果剰余商品が生ずる分を仕入数量から控除したものであつて、これをもつて四五年、四六年分の減耗損の計上漏れを認めたことにはならない。

二 その他の収入について

1 控訴人の右主張は、係争各年分の期末棚卸高が過大である旨の主張であり、これは自白の撤回に当たり、異議がある。

控訴人は、昭和四五年分の期首棚卸高を除く係争各年分の期首・期末棚卸高について、実額収支計算による具体的金額を主張し(先行自白)、被控訴人がこれを認めたことにより自白が成立した。

2 仮に自白の撤回が許されるとしても、控訴人の主張は期末棚卸高から売上原価に振り替えるべき数額を前記四五年分期首棚卸高とほぼ同様の方法で計算しているところ、右は推計による抽象的主張であつて、信用できない。例えば、四五、四六年分の売上数量算出に使用されたトン当たり売上平均単価の根拠は不明である。

三 昭和四五年分の売上原価について

1 控訴人の本訴における態度は、課税に関する除斥期間が経過し、被控訴人において更正不能となつた時期において自己のなした計算を否定し、異なる数字を主張するもので、著しく信義則に反する。

2 控訴人の主張する額について具体的客観的資料はなく、推計した額に過ぎず、なお、計算に当たつて使用されたトン当たり売上平均単価一万九一四三円の根拠は不明であり、また、相場の変動の激しいことを考えると、同年一月分のトン当たり仕入平均単価を使用して期首棚卸数量から期首棚卸高を算出した推計方法は不合理である。

3 甲第三五号証の二、第五一号証の意見は、被控訴人が昭和四四年分の所得調査の際事実関係を十分把握しえなかつたことを看過しており、その際把握しえなかつた同年分の田村順子名義一三二七万〇七五〇円(乙第二六号証の二、三)及び小山正義名義の五五二万九九八二円(乙第二六号証の八)合計一八八〇万〇七三二円を、損益計算書の売上金額に加算して計算すると差益率は一五・七六パーセントとなり、係争各年分の差益率とほぼ同程度となる。控訴人主張の売上分合計五六〇万三二五二円の根拠は明らかでなく(甲第三六号証は該当年度より一七年も経過して作成されたもので、根拠資料も明らかでなく、信用できない。)信用性がない。同年一二月分の平均仕入単価一万五二七八円、四五年分売上トン数一万六八七九・四四トン、四六年分売上トン数一万四九二二・二八九トンの根拠資料はなく、控訴人側から示された数字を鑑定人がそのまま使用したものである。

四 雇人費について

1 控訴人は昭和四五年分の売上帳を提出しないから売上数量の把握は不可能であり、数量による推計はできない。

そして、売上額による推計は控訴人に有利である。すなわち、屑鉄相場の変動状況は本判決別表(八)のとおりであり、昭和四五年の屑鉄相場は四六年、四七年と比べ約二倍であるところ、甲第一九号証によると雇人費の給料ベースは四五年に対し四七年は一〇パーセント程度上昇しているから、屑鉄相場が安く、かつ、給料ベースが高い四七年分の雇人費率(売上金額に対する雇人費の割合により)相場が著しく高く、かつ、給料ベースの低い四五年分についての雇人費を推計することは、控訴人にとつて有利でこそあれ不利ではない。

控訴人の主張をもとに、売上数量による推計をすると、次のとおり控訴人に不利となる。

昭和四五年分

仮に、控訴人主張によれば、同年分の仕入数量は一万七六四〇・一四四トン(甲第二八号証)であるところ、期首棚卸高(一〇三一万八一七六円)より期末棚卸高(一八一五万九〇〇四円)の方が多いこと、一トン当たりの仕入平均単価は期首棚卸時より期末棚卸時の方が低いことからして、期首棚卸数量より期末棚卸数量の方が多いことになる。したがつて、売上数量(期首棚卸数量+仕入数量-期末棚卸数量-減耗数量)は同年の仕入数量より少なくなり、推計上、控訴人に有利な仕入数量と同額として四七年の雇人費と売上数量の比から算出すると、次のとおり、五二三万一五四〇円となり、前記被控訴人の主張額よりも低くなる。

(47年分雇人費)(47年分の仮定売上数量)

<省略>

(47年分売上数量)

昭和四六年分

甲第四号証による四六年一月から七月までの仕入数量と同年八月から一二月までの仕入数量の比により、同年八月から一二月までの給料を基礎に推計した雇人費は、次のとおり、六五五万四九二六円となり、前記被控訴人の主張額よりも低くなる。

<省略>

(8~12月仕入数量)

2 控訴人が新しい機械を据え付ける工場建設のための資金二六四五万円を借入れたのは昭和四三年一〇月九日から同年一二月二八日までにかけてであり、その後旧機械の移設及び仮建築費用として二〇〇〇万円を四七年四月一二日に借入れており、さらに同年九月三〇日に新しい機械の購入費の頭金及び土地購入費資金として四〇〇〇万円を借入れている。仮に、頭金支払の直後から据付工事を着手したとしても、それは相当大型の機械であるため、入念な基礎工事、解体した機械の組立・据付工事、付帯設備工事が必要であり、試運転期間などを経て、正式に機械の引き渡しが行なわれ、営業運転に入つても、機械操作になれる必要もあるから、少なくとも、同年内にあつては、新機械の威力はほとんど発揮することができず、雇人費節減の効果が出ていなかつたと考えられる。このことは、同年一〇月以降三か月の間の雇人費の支払状況に変化がなく、売上数量、仕入数量も特に著しい増加傾向が認められないことによつても裏付けられる。

3 控訴人提出の賃金台帳(昭和四七年分については源泉徴収簿)によると、雇人費に皆勤手当や時間外給料の支給をしているというのであるから、そのもとになつた出勤簿などの原始記録、さらには給料の支払の記載のある現金出納簿などの裏付け資料を提出すべきであり、それがないかぎり、信用できない。控訴人は、複式簿記で記帳していたというのであるから、給料賃金の支払を記録しているはずの現金出納帳、総勘定元帳、振替伝票(すべてのもの)などの裏付け資料を提出して、賃金台帳の記載額を裏付けるべきである。また、四五年の屑鉄相場は四六年の約二倍であり、一方、控訴人の四五年分の売上高も四六年分の約二倍であるから、売上数量は同程度であつたことが推定される。したがつて、雇人費が売上数量に比例すれば大きな変動はないはずであるが、控訴人の賃金台帳では四五年分の雇人費は四六年分に比して二五〇万円余も上回り、控訴人の主張と矛盾する。

4 甲第一九号証、第二九ないし第三一号証はその資料となる現金出納帳が提出されていないから信用できず、したがつて、控訴人主張の労務費は認められない。

5 乙第六九号証によれば、野山恵子及び呉山祐根は、昭和四五年当時健康保険などの被保険者資格を既に有していたことになるから、右両名に給与などを支給したのであれば、当然、健康保険料などが控除されているはずであるが、賃金台帳(甲第六号証)には控除の記載がないから、その点で明白に内容虚偽である。右虚偽記載から、当時の右両名に対する給与支給自体が疑問となり、右両名は、当時休職中であり、支給がなかつたというべきである(なお四六年八月以降保険料が控除されている(甲第七号証)から同月以降復職したというべきである)。

6 当審において所得の認定額に変更が生じた場合に備えて、第二次的に雇人費につき次のとおり主張する。

(一) 昭和四七年分

(1)  福井清一は雇人として存在せず、一二月分給与の支払のみならず、賞与三万円の支払も認められない。

(2)  大原順子は、控訴人の課税所得の計算上扶養控除の対象とされている(乙第六三号証の三)から、同人に対する給与は雇人費から控除されるべきである。

(3)  山田閏吾、岩佐きく子に対する給与は架空である。源泉徴収簿(甲第八号証)によれば、岩佐の給与・手当等欄の記載金額は、山田のそれの一〇月分から一二月分までのと全く同じであり、山田の源泉徴収簿は右部分を抹消し、年末調整にあつては、いつたん抹消した部分をも含めて計算している。右事実などから見れば、岩佐の一〇月分から一二月分については、源泉課税がありながら、一度は山田分として計上し、そのうえ、年末調整まで山田分として計算した後、改めて岩佐の源泉徴収簿を別途作成したものと認められる。本来源泉徴収簿は、各雇人費についての月々の給与と課税の状況を明確にし、もつて年末における税金の精算を容易にするための記録であることを考えると、かかる課税の誤りを起こしかねない混同した記載は極めて不自然であり、右関係者は年末における税金の精算を実際には必要としていなかつたと認められる。また、先に記載されたはずの山田分には一二月分の賞与の記載はなく、年末調整後作成したと認められる岩佐分には賞与一万円の記載があり、金額も端数がなく画一的であることなどを考え合わせると、右支払分は架空であるといえる。

(4)  中川勝祐に対する給与は架空である。同人の源泉徴収簿(松岡妙子を訂正)によると、その筆跡から見て一二月一六日の賞与一万五〇〇〇円は、右欄の年末調整欄記載の際に追記したことが明白であり、架空計上された疑いが極めて強い。

(5)  下鍛治利道(昭和四七年六月一日前の分)に対する給与は架空である。同人が控訴人の従業員として健康保険などの被保険者資格を取得したのは、同年六月一日であり、それ以前については、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格も有していない(乙第六九、第七〇号証)のであるが、甲第八号証には同年五月以降社会保険料を徴収している旨の記載があり、同号証は明白に虚偽であり、同人は当時雇用されていなかつたというべきである。

(6)  昭和四七年一二月一六日支給の賞与にかかる所得税の源泉徴収税額は、徴収高計算書(乙第三一号証の一七)によると三万八一〇〇円であるが、源泉徴収簿によると四万二六〇〇円であつて四五〇〇円多く、この金額は、中川九〇〇円、岩佐六〇〇円、福井三〇〇〇円の合計四五〇〇円に合致する。

(7)  甲第八号証による社会保険料の合計額は、否認が相当である福井ほか四名の額を含めても二九万二一二二円としかならない。

(8)  以上によれば、昭和四七年分の雇人費は、同年分の給与等の所得税徴収高計算書記載の支給額八二一万一二一七円と社会保険料二九万二一二二円の合計額八五〇万三三三九円から架空等の雇人費である福井清一三万円、大原順子五二万二〇〇〇円、山田閏吾九万一一九〇円、中川勝祐一八万五八六〇円、岩佐きく子一三万円、下鍛治利道三〇万円の合計一二五万九〇五〇円を控除した七二四万四二八九円である。

(二) 昭和四六年分

(1)  大原順子、下鍛治利道については前同様の理由で認められない。

(2)  この場合の雇人費は、原判決と同様の計算方法によれば、次のとおり、七〇九万九三五二円となる。

(ボーナスを除く8~12月給料手当)(大原順子のボーナスを除く8~12月給料手当)(下鍛治利道のボーナスを除く8~12月給料手当)

8,105,780円-(175,000円+289,800円)=3,640,980円

(ボーナスを除く年間給料手当)

<省略>

(大原順子、下鍛治利道を除く雇人の年間賞与)

6,888,852円+761,000円=7,099,852円

(三) 昭和四五年分

昭和四七年分の雇人費が七二四万四二八九円となるから、同年分の売上金額に対する雇人費の割合をもつて、四五年分の雇人費を算出すれば、次のとおり、七八二万九五九五円となる。

47年分雇人費率

(47年分雇人費)(47年分売上金額)

7,244,289円÷307,628,648円=0.0236

45年分雇人費

(45年分売上金額)

331,762,494円×0.0236=7,829,595円

五 支払利子割引料について

1 割引手形計算明細書(甲第三二号証の一、二)は綿谷奈美子名義であつて、割引の主体が控訴人であるとはいえない。

2 控訴人は、複式簿記による記帳をしているのであるから、手形記入帳、手形帳の控え、割引により受け入れた預金の銀行帳簿または現金出納帳などにより明確にすべきであり、右のような断片的資料を提出することはおかしい。控訴人は尼崎信用金庫には信用があり、右少額の借入をするのに他人名義にする必要はなく、信用できない。仮に控訴人の借入であるとしても、かかる少額かつ仮名のものを事業用に借用したとは考えられず、事業所得の必要経費とはならない。

第三証拠

本件記録の原審及び当審における証拠に関する調書記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所は、原判決を本判決主文のとおり変更すべきものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由(ただし原判決九枚目裏八行目冒頭から二六枚目裏六行目末まで)説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決において「証人山本彦沢の証言」とあるのは「原審及び当審証人山本彦澤の証言」と読み替える。

2  原判決九枚目裏一三行目の「売上原価」の次に(売上原価の内訳も争いがない。なお、控訴人の予備的主張に伴う後記期首、期末在庫量の変動により、昭和四六年分の売上原価は一億六〇九一万二六四六円となる。)を加える。

3  一〇枚目裏三行目の「記載や」の次に「後記4(二)のとおり」を、七、八行目の「認められる」の次に「ところ、控訴人の予備的主張に伴う後記期首、期末在庫量の変動及び簿外売上の追加(ただし売上数量二万二五〇〇・五四六トンに含まれる)により、余剰商品は、次の算式とおり、一一〇七・七七九トンとなる(なお、小数点第三位未満四捨五入。以下同じ。)」をそれぞれ加える。

「<1> 期首棚卸量の算定

(決算後の期首棚卸高)(46年12月のトン当り平均仕入単価)(期首在庫量)

(23,606,289-4,901,810-8,678,246)円÷10,202円=1,472.92トン

<2> 期末棚卸量の算定

(決算後の期末棚卸高)(47年12月のトン当り平均仕入単価)(期首在庫量)

(25,029,781-4,901,310-3,678,246-812,037)円÷13,759円=1,186.575トン

<3> 不突合数量の算定

(期首棚卸)(仕入)(期末棚卸)(売上)

1,472.92トン+23,271.98トン-1,186.575トン-22,500.546トン=1,107.779トン」

4  一二枚目裏行目の「あつたこと」の次に「、同表の二の株式会社大鋳からの入金額合計一八万七〇〇〇円を同社に対する売上として収入金額に計上すべきこと、昭和四五年分につき三万一三〇八円、昭和四六年分につき二三万三三二七円(ただし前記大鋳に対する売上分を含む。)、昭和四七年分につき二五万五七〇八円が収入金額に計上されるべきこと」を加える。

5  一五枚目表一二行目の「収入」の次に「及び簿外売上」を加える。

6  一八枚目裏六行目の「となる」の次に「ところ、控訴人の予備的主張に伴う後記期首、期末在庫量の変動により、二億八八一八万一六〇五円となる」を加え、一〇行目の「一二六六・一六五トン」を「一一〇七・七七九トン」と改める。

7  一九枚目表二行目の「一二六六・一六五トン」を「一一〇七・七七九トン」と、四行目の「別表(六)及び別表(九)」を「次」、と四、五行目の「八一六・一五四トン」を「六五七・七六八トン」と、六行目の「別表(六)及び別表(九)」を「次」と、七行目の「九三一万三一三三円」を「七五〇万五七九一円」とそれぞれ改め、同行の次に改行して次のとおりの算式を加える(円未満四捨五入。以下同じ。)。

「(イ) (過大仕入数量)(売上数量)(減耗率)(実質過大仕入数量)

1,107,779トン-22,500.546トン×0.02=657.768トン

(ロ) (トン当り平均仕入単価)(実質過大仕入数量)

11,411円×657,768トン=7,505,791円」

そして、一〇行目の「二億五四八二万四九四九円」を「二億五六六三万二二九一円」と改め、一一行目の「となる」の次に「ところ、控訴人の予備的主張に伴う後記期首、期末在庫量の変動により、二億五七四四万四三七八円となる」を加える

8 二四枚目表一〇行目の「第五三号証」の次に、「、前掲証人山本彦澤の証言により成立を認める甲第九、第一〇号証、第二〇号証、第二三号証、第三二号証の一、二、同証人の証言」を、「とおりである」の次に「ほか、昭和四五年分につき一四万二八七六円(綿谷名義)、昭和四六年分につき一一万七九〇二円がある(右認定に反する特段の証拠はない)」をそれぞれ加え、一二行目冒頭から二五枚目裏二行目までを「(三) 右(二)掲記の各証拠によれば、支払利子割引料として、住友銀行歌島橋支店分が昭和四五年分九万二五五八円、四六年分四万三四四〇円、講掛け金(支払利息分)が同じく、八八万二〇〇〇円、四四万二〇〇〇円それぞれあることが認められ、右認定に反する特段の証拠はない。」と、四行目の「(二)」の次に「(三)」を加え、「別表(二)記載」を控訴人主張の昭和四五年分につき五七三万八三五七円、昭和四六年分につき五八一万四五九八円」と改める。

9 その他収入にかかる売上原価について

控訴人は、被控訴人主張のその他の収入金額が売上に計上されるのであれば、予備的に右簿外売上に見合う売上原価を加算すべきであると主張するので検討するに、控訴人の右主張は、控訴人の棚卸が実地棚卸でなく帳簿棚卸であることを前提に、昭和四五ないし四七年の各年分の期末棚卸高が過大との主張、すなわち、右各年分の簿外売上に見合う簿外在庫分を減算するという主張と解される。

しかるところ、被控訴人は、右主張が自白の撤回に当たると主張するので、検討するに、控訴人の棚卸は実地棚卸でなく帳簿棚卸であるところ、売上原価についての控訴人の従前の主張は、これを考慮せず、単に、帳簿記載の金額からの数字をもつて期末棚卸高とし、簿外売上に見合う簿外在庫を含めなかつたものと考えられるから、被控訴人の主張の期末棚卸高の主張をその趣旨及び限度で認めたものというべきであり、簿外売上に見合う簿外在庫を含めたものとしての主張については、自白が成立していないというべきであり、自白の撤回に当たらないから許されるというべきである(仮に、自白が成立しているとしても、錯誤により真実に反した自白をしたものといいうるから、その撤回が許される。

そこで、右主張につき判断する。

昭和四五年分について売上漏れとされた金額は五六八万二七〇四円であり、これをトン当たりの売上平均単価一万九一三四円(文書の体裁、様式及び記載形態並びに弁論の全趣旨により成立を認める同年分の振替伝票である甲第五二号証の一ないし三〇四各記載の売上高合計三億二二九七万九五八二円を同記載の売上数量合計一万六八七九・四四〇トンで除したもの。弁論の全趣旨により成立を認める甲第五三号証の明細表参照。なお、被控訴人は、右振替伝票が信用できないと主張するところ、なるほど、右伝票に記載されていない売上分が存在すること、すなわち右伝票の記載が網羅的でないことは、簿外売上の存在することからも明らかであるが、少なくとも、そこに記載された売上分が虚偽のものを表示していることを示す証拠はなく、文書の体裁、様式及び記載形態を合わせ考慮すれば、その記載自体は信用できるというべきであり、被控訴人が主張する事由をもつてその信用性を否定することはできない。)で除すると、売上数量が二九六・九九五トンとなり、これに同年分のトン当たりの平均仕入単価一万六五〇三円(当事者間に争いがない同年分の仕入金額二億九一一二万一一二三円を前記甲第三号証、当審証人山本彦澤の証言により成立を認める甲第二七、第二八号証により認められる同年分の仕入トン数一万七六四〇・一四四トンで除したもの)を乗じた四九〇万一三一〇円が右簿外売上に見合う期末棚卸高の減算分となる。

昭和四六年分に売上漏れとされた金額四四一万三二五〇円をトン当たりの売上平均単価一万二二七三円(文書の体裁、様式及び記載形態並びに弁論の全趣旨により成立を認める同年分の振替伝票である甲第五四号証の一ないし三〇三各記載の売上高合計一億八三一三万五九九一円を同記載売上数量合計一万四九二二・二九トンで除したもの。弁論の全趣旨により成立を認める甲第五五号証の明細表参照。前同様の理由で右振替伝票の記載自体は信用できる。)で除すると、売上数量が三五九・五九〇トンとなり、これに同年分のトン当たりの仕入平均単価一万〇二二九円(当事者間に争いがない同年分の仕入金額一億六二六八万一六八五円を前記甲第四号証、弁論の全趣旨により認められる同年分の仕入トン数一万五九〇三・七五九トンで除したもの)を乗じた三六七万八二四六円が右簿外売上に見合う期末棚卸高の減算分となる。

昭和四七年分に売上漏れとされた金額九七万二九九六円をトン当たりの売上平均単価一万三六七二円(同年分の売上帳である前記乙第三七号証記載の売上高三億〇六六三万五八四三円を同記載の売上数量二万二四二八・二九六トンで除したもの。前記乙第三八、第三九号証参照)で除すると、売上数量が七一・六七トンとなり、これに同年分のトン当たりの仕入平均単価一万一四一一円(前記同年分の仕入帳である甲第五号証の一、二記載の仕入高二億六五五六万七五七四円を同記載の仕入数量二万三二七二・五〇六トンで除したもの。前記乙第四〇、第四一号証参照)を乗じた八一万二〇八七円が右簿外売上に見合う期末棚卸高の減算分となる。

ところで、各年分の期首棚卸高は前年の期末棚卸高に等しいから、右期末棚卸高の減算に伴い、各年分の期首棚卸高も減算された前年の期末棚卸高に等しくなり、その結果、四五年分の売上原価は、期首棚卸高が従前のとおりであるところ、期末棚卸高が四九〇万一三一〇円減算となるから、同減算分に相当する四九〇万一三一〇円増加し、四六年分の売上原価は、期首棚卸高が四五年分の期末棚卸高に等しく従前の期首棚卸高より右四九〇万一三一〇円減算されるところ、期末棚卸高が従前の期末棚卸高より四九〇万一三一〇円に三六七万八二四六円を加えた分だけ減算されるから、結局、右三六七万八二四六円を増加し、四七年分の売上原価は、期首棚卸高が四六年分の期末棚卸高に等しく従前の期首棚卸高より右四九〇万一三一〇円に三六七万八二四六円を加えた分だけ減算されるところ、期末棚卸高が従前の期末棚卸高より四九〇万一三一〇円に三六七八二四六円及び八一万二〇八七円を加えた分だけ減算されるから、結局、右八一万二〇八七円増加することになる。

10 余剰商品について

なるほど、控訴人自身のした昭和四五年分の申告所得額三二三万七七〇〇円から減耗損五八六万五六〇五円を控除すれば二六二万七九〇五円の、四六年分の申告所得八一万六五〇六円から減耗損三一四万四六八八円を控除すれば二三二万八一八二円のそれぞれ赤字となる(なお、原判決が両年分につき欠損が生じないと説示しているのは原判決認定の所得額によつていることが明らかであるから、その説示自体に誤りはない。)が、それを前提としても、原判決の説示するとおり、控訴人の主張は採用しえない。のみならず、控訴人の減耗損についての主張は、余剰商品が生じたことの合理化のための事後的説明に過ぎない可能性が強く、減耗損について、その当時、主張のような帳簿処理をしたような形跡は窺えない。

また、控訴人の昭和四五年から四七年分を通じての期末在庫の不突合を理由とする主張は、前記のとおり、右各年分の売上漏れ五六八万二七〇四円、四四一万三二五〇円、九七万二九九六円に見合う期末棚卸高の減算分が存在するから、仮に控訴人主張の計算により主張の期末在庫が算出されるとしても、右減算された真実の期末在庫と比較すれば、控訴人が主張するほど大きな食い違いは生じない。

11 昭和四五年分の売上原価について

控訴人の主張には、甲第二七、第二八号証、第三五号証の一、二、第三六号証、第五一号証、第五八号証の一、二、原審及び当審証人山本彦澤、証人國岡清の各証言が沿うが、乙第二六号証の二、三、八に照らすと、同四四年分の売上が被控訴人主張のようになることが窺え(甲第三六号証の信用性は薄い)、甲第三五号証の一、二、第五一号証、証人國岡清の証言などは、過少な売上高を前提にする点において既に妥当性を欠くというべきである。

また、控訴人の四五年から四七年を通じての期末在庫の不突合を理由とする主張が当たらないことは前記したとおりである。

のみならず、原審証人山本彦澤の証言によると、控訴人の平常在庫は半月以上二〇日間くらいだというのであり、これから考えると、一〇三一万八一七六円という期末在庫は必ずしも異常なものとはいえない。

12 雇人費について

雇人費については原判決が説示するとおりであつて、控訴人の主張は原判決の認める範囲を超えて認めることはできない。

成立に争いのない甲第二五号証、第三三号証、第四二号証の一、当審証人山本彦澤の証言により成立を認める甲第二六号証、第三四号証の一、二、同証人の証言によれば、本件機械が昭和四六年八月一六日に据え付けられて使用されたことが認められるが、控訴人主張の人員の推移については、少なくとも同年七月以前については、徴収高計算書(乙第三一号証の一ないし一七)の記載とも符合せず、主張のとおり認めることはできないのであつて、右年分に相当する賃金台帳、源泉徴収簿(甲第六、第七号証)の記載を裏付けることにはならず、また、右年分についての推計の合理性を否定するまでには至らない。そして、売上金額との対比による推計方法を用いたことは、合理的な一つの推計方法であり、一方、控訴人主張の売上数量との対比による推計方法ももちろん合理的な一つの推計方法であるが、被控訴人主張のとおり、売上数量との対比による方法よりも売上金額との対比による方法が控訴人に不利益になるとはいえないから、売上数量との対比による方法を採用しなければならないとする控訴人の主張は認められない。

労務費についての控訴人の主張に沿う甲第二九ないし第三一号証、当審証人山本彦澤の証言を合わせても、原判決が説示するとおり、右主張を認めることができない。

被控訴人主張6は採用できない。すなわち、昭和四七年分についての主張(1)は、成立に争いのない甲第四一号証の一、二に照らし、採用できず、同主張(2)については、独自の見解を前提とするものであつて、採用できず、同主張(3)については、なるほど、源泉徴収簿(甲第八号証)によると、岩佐の給与・手当等欄の記載金額が山田のそれの一〇月分から一二月分までのと全く同じであるといえるが、山田の同部分が抹消され、年末調整の際にも計算に含まれていないことに照らすと、右各記載が相互に矛盾することはなく、右両名の賞与の金額の記載を考慮しても、右各支払分が架空とまで断定できず、同主張(4)については、主張の筆跡の点から直ちに主張のような結論を導くことはできず、同主張(5)には前掲甲第八号証、成立に争いのない乙第六九、第七〇号証が沿うが、原判決説示のとおり、徴収高計算書と源泉徴収簿との記載が合致することからすると、下鍛治利道に対する昭和四七年六月一日前の給与も、同年五月分を含め、右各記載のとおり支払われていたと認めるべきであり、同主張(6)については、主張のとおり、徴収税額の記載が徴収高計算書と源泉徴収簿とで一致せず、その差額四五〇〇円が主張の三名分の合計額に合致するが、賞与の支給額五五万五〇〇〇円それ自体の記載は、徴収高計算書と源泉徴収簿とで一致しており、右三名に対する給与・賞与の支給が架空とはいえず、同主張(7)については計算上主張の額にならない。そして、四七年分についての主張が認められない以上、四五、四六年分についての主張も認められない。

13 以上によれば、控訴人の係争各年分の総所得金額は、本判決別表(九)のとおり、昭和四五年分が一七七七万二九五一円、四六年分が三七七万三四三四円、四七年分が一二三四万一三二六円となる。そうすると、四五年分についてされた本件処分は、いずれも右認定の範囲内でなされているから、適法であるが、四六、四七年分についてされた本件処分は、いずれも、右認定の範囲では適法であるが、これを超える部分については違法である。

二  よつて、原判決を本判決主文のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 川鍋正隆 裁判官 若林諒)

別表(一)

昭和45年分

<省略>

別表(二)

昭和46年分

<省略>

別表(三)

昭和47年分

<省略>

別表(四)

昭和45年分

<省略>

別表(五)

昭和46年分

<省略>

別表(六)

昭和47年分

<省略>

別表(七)

<省略>

別表(八)

平均仕入単価(中原商店)及び各年対比表

<省略>

別表(九)

<省略>

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